SPIRE INCSR

時価総額
PER
天然ガス供給と関連インフラ事業の大手、2000年設立。配管・輸送・貯蔵とガス小売りを展開。2019年5月の優先株公募と2024年2月の証券購入契約。ミズーリ・アラバマなど米国複数州での展開、従業員3,475人(2024年9月30日時点)。

事業内容

Spire Inc.は米国中西部・南部で天然ガスの供給と関連事業を手がける持株会社で、家庭や企業向けのガス配給を中心に事業を展開しています。主力は規制対象のガスユーティリティ事業で、これに加えて天然ガスのマーケティングとパイプラインや貯蔵を含むミッドストリーム事業を運営しています。

同社の主要な顧客は住宅、商業、工業、輸送用途の利用者で、収益は規制料金収入と非規制の取引収入に分かれます。冬季の暖房需要により収益と利益が例年11月から4月に集中するため、季節変動が業績に影響します。

同社の事業は大きく三つのセグメントに分かれており、規制事業はSpire MissouriやSpire Alabamaなどの地域ユーティリティが担っています。ガスマーケティングはSpire Marketingが天然ガスの売買や調達を行い、ミッドストリームはSpire STL Pipelineや貯蔵会社が輸送・保管サービスを提供しています。

同社は有利子負債や規制環境、インフラ投資を通じた成長を重視しており、安全・人材育成にも力を入れています。規制変更や経済環境の影響が業績に及ぶ点は投資家が留意すべきポイントです。

経営方針

同社は持続的な成長と株主価値の向上を目指しています。具体的には「有機的成長」「インフラ投資」「技術革新」を成長の3本柱として掲げ、ガス事業を中核にガスユーティリティ、ガス・マーケティング、ミッドストリームの三つの報告セグメントで収益を拡大しています。2024会計年度の連結純利益は250.9(注:同社開示値)で、1株当たり基本利益は4.20ドル、希薄化後もほぼ同水準の4.19ドルでした。冬季の暖房需要に依存する季節性(11月〜4月に収益が集中)を踏まえつつ、安定収益化を目指しています。

同社は差別化のために既存設備の強化と人的資源への投資を重視しています。長期的な従業員数は約3,475名(2024年時点)で、現場社員向けに建設・維持管理は初年度で約80時間、サービス・設置担当は約200時間の安全教育を実施し、従業員育成のため年間最大6,000ドルの学資支援制度も設けています。年金・退職給付の運用面では、Spire Missouriでリターン志向資産70%、債務ヘッジ資産30%、Spire Alabamaでリターン志向75%、ヘッジ25%を目標とする資産配分を公表し、運用は外部助言会社(Willis Towers Watson)と連携して管理するなど、財務の安定化も差別化策の一つです。また2019年には優先株に対応する預託証券を発行し、優先配当利回りは年率5.90%としています。

同社は新市場開拓と事業拡大を慎重かつ機動的に進める計画です。ミッドストリーム分野ではSpire STL PipelineやSpire MoGas Pipeline、貯蔵事業(Spire Storage)といった輸送・貯蔵設備を活用して需給や季節変動のリスクを低減しながら顧客基盤を広げています。成長手段として戦略的買収や投資も想定しているものの、同社自身が開示している通り、買収には規制承認や統合コスト、潜在的な負債の引受けなどのリスクがあるため、経営資源の配分と事前の価値評価を重視している点も明示されています。

同社は技術革新を経営の重要課題と位置づけ、情報セキュリティや運用効率の向上に具体的に投資しています。情報セキュリティは経営層と取締役会が直接監督し、国際的な管理基準やフレームワークに基づく運用を行うほか、取締役会にサイバーの専門家を迎えるなどガバナンスを強化しています。現場では車載カメラとリアルタイム警告・運転コーチングを導入し安全性を高める一方、価格変動リスクに対しては先物やスワップ等のヘッジや資産配分による管理で財務の安定性を図るなど、技術と金融手法を組み合わせて競争力を高める取り組みを続けています。