アストロスケールホールディングスJP:186A

時価総額
¥887.7億
PER
軌道上サービスの有力企業。RPO技術を基盤としたELSA‑dやADRAS‑J、ELSA‑Mによる観測・延命・除去サービスを展開。2024年2月18日のADRAS‑J打上げや2021年3月のELSA‑d宇宙実証などの実績。日本、英国、米国、欧州を中心としたグローバル展開。

事業内容

アストロスケールホールディングスは、人工衛星や宇宙ゴミ(スペースデブリ)に近づいて観測・点検したり、捕獲して除去したり、燃料補給や寿命延長を行う「軌道上サービス」を事業の中核としています。同社は近接して安全に作業する技術を軸にサービサー衛星やドッキング用のプレートなどを自社で開発し、ELSA-dやADRAS-Jなどの実証ミッションで技術を磨いています。

主要な顧客は各国の政府機関や宇宙機関、防衛機関に加え、民間の衛星運用事業者です。同社の収益は現状、研究開発や実証に対する政府系の契約で得るマイルストーン型の収入が中心で、将来的にはサービサーの販売や延命サービス料、コンステレーション向けの定期サービスなど民間からのサービス収入を拡大する計画です。

事業は大きく四つに分かれており、故障機やデブリの観測・点検(ISSA)、寿命延長・燃料補給(LEX)、既存デブリの除去(ADR)、運用終了時の除去(EOL)を展開しています。具体的な製品・技術は近接運用を行うサービサー衛星、磁石やアームを使った捕獲機構、衛星に取り付けるドッキングプレート、そして地上の管制・運用体制で、同社は日本・英国・米国・イスラエルの拠点で設計・製造から運用までを一貫して進めています。

経営方針

同社は、軌道上サービスを社会インフラ化し世界のリーダーになることを成長戦略の中心に据えています。具体的には、ISSA(観測・点検)、LEX(寿命延長・燃料補給)、ADR(除去)、EOL(運用終了処理)の4つのサービスについて、最短で2028年4月期までに顧客契約に基づく宇宙ミッションを完了して提供実績を示すことを目標とし、2030年をメドに各種サービスが当たり前に使われる状況を目指しています。経営指標としては受注残総額(パイプラインの確保)とミッションごとの開発スケジュールの進捗を重視し、売上総利益・営業利益・フリー・キャッシュ・フローの黒字化を財務目標に据えています。

重点投資分野はコアの近接作業(RPO:接近・追尾・対処)技術の開発で、同社はこの分野を自社開発して知的財産を保有している点に強みがあります。実績としてはデブリ除去の実証衛星ELSA‑dや観測衛星ADRAS‑Jの打上げ成功があり、2025年6月時点で非協力物体に対するRPOの宇宙実証に成功した競合は確認されていません。差別化策としては、各ミッションごとの顧客要求に応じた設計最適化を優先し、汎用化で過剰なコストになるのを避けつつ、ERP導入(2025年運用開始)や債権債務回転の改善でコスト透明化と効率化を進めています。

新市場開拓と事業拡大では、当面は政府・宇宙機関や防衛需要をドライバーにしつつ、民間の衛星運用事業者向けサービス収入へ転換する計画です。既に防衛関連や燃料補給ミッションで契約・選定があり、ドッキングプレートの打上げ前装着でも受注を進めています。資金基盤の整備も進めており、2024年6–7月の東証グロース上場で約200.7億円、2025年3月にりそな銀行から30億円のコミットメントライン、2025年5月の海外募集で約109.85億円を調達して事業加速に充てています。なお案件獲得には1〜5年を要するため、同社は2025年度以降に複数ミッションを同時開発するフェーズへ移行する計画です。

技術革新への取り組みは、V字モデルによる開発審査や長期の技術ロードマップの定期更新で品質と再現性を担保することに重きを置いています。自社開発のコア技術に加え、周辺技術は自社開発とM&Aの両面で獲得を検討しており、AIはシミュレーションや契約書作成・マーケティングで既に利用しつつ、RPO応用の研究も開始しています。加えて標準化や法制度づくりへの参画(国際会議体やCONFERS等での活動)を通じて、業界全体の運用基準整備と自社技術の普及にも積極的に貢献していく方針です。