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ATI INCATI
事業内容
ATI Inc.は特殊金属と高付加価値部品の設計・製造を行う企業で、航空宇宙や防衛をはじめとする産業向けに高性能合金や鍛造部品、機械加工部品、フラットロール製品、粉末材料や金属の積層造形(付加製造)を提供しています。
同社の主要顧客は商用航空や防衛分野で、これらが売上の大きな割合を占めますが、自動車、医療、エネルギー、電子、建設・鉱業など多様な業界にも納入しており、スポットの受注と長期供給契約(LTA)が混在して収益を構成しています。LTAは数年単位での供給と価格の枠組みを定め、供給安定化に寄与しますが、特に航空分野の景気変動で業績が変動しやすい点に注意が必要です。
事業は大きく二つのセグメントで展開しており、HPMC(高性能材料・部品)では溶解から鍛造、機械加工までの一貫生産で長尺材や高度な部品を供給しています。一方、AA&S(先端合金・ソリューション)ではジルコニウムやハフニウム、ニオブを含む特殊合金やニッケル・チタン系の素材、平板製品の熱間圧延・仕上げを手掛け、国内外に製造拠点を持ち多品目・高付加価値の需要に応えています。
経営方針
同社は航空宇宙・防衛市場を中心に、売上と利益率の持続的な向上を目指しています。2024年度は総売上高が約43.6億ドル、調整後EBITDAが約7.29億ドル(売上比16.7%)を記録しており、特に次世代旅客機用エンジンや軍需向けの需要取り込みで成長を図っています。加えて、確定受注残高は約39億ドルあり、そのうち約70%が12か月以内に履行される見込みであることから、短期的な収益基盤の堅持を狙っています。
同社は高付加価値材料と部品に重点投資を行い、差別化を図っています。具体的にはニッケル系・特殊合金、精密鍛造・鋳造品、チタン合金といった製品群に資源を集中させており、2024年の製品構成はニッケル系が約41%、精密鍛造等が約36%、チタン系が約23%でした。溶解から圧延、鍛造、仕上げまでの一貫生産設備を自前で保持することで品質と納期を管理し、長期供給契約を通じた顧客との関係構築で安定供給を武器に差別化を図っています。
同社は新市場の開拓と事業拡大にも積極的です。医療分野や電子機器向けの伸びが顕著で、2024年は医療市場売上が前年から約47%増、電子機器向けが約22%増となりました。これに対応して、米国内外の生産拠点の機能拡張(例:サウスカロライナ・ページランドの能力拡大)や合弁事業の活用により地理的展開を強化しています。また、買収やジョイントベンチャーを通じた製品ラインの補完も継続的に模索しており、受注残や顧客支払条件を踏まえた運転資本の管理にも注力しています(管理対象運転資本は年換算売上の約30.9%)。
技術革新への取り組みとして、同社は製品・製法と情報セキュリティの両面で投資を進めています。積層造形(いわゆる金属3Dプリント)設備の導入や、真空溶解・再溶解など高度な素材処理技術を活用して次世代エンジンや医療用部材の高精度化を図っており、同時に米国国立標準技術研究所(NIST)のサイバーセキュリティ枠組みに沿った全社的な情報管理体制を整備しています。これにより製造現場のデジタル化とサプライチェーンの信頼性を高め、長期的な競争優位の確立を目指しています。