AST SpaceMobile, Inc.ASTS

時価総額
$168.6億
PER
モバイル衛星通信の新興企業。標準スマホへ直接接続する宇宙セルラーサービスと大口フェーズドアレイ搭載BB衛星を展開。2025〜2026年に約60基の打上計画と2024年の主要通信事業者との取引。米国・欧州・日本で展開。

事業内容

AST SpaceMobile, Inc.は、日常使っているスマホ(2G/4G/5G端末)で直接つながる宇宙上のモバイルブロードバンド網「SpaceMobile Service」を構築しています。主力は地上の携帯電話網と連携する大型の低軌道衛星(BB衛星)で、衛星を通じて離れた地域や航行中の航空機・船舶などでもセルラー接続を可能にすることを目指しています。

同社の主要な顧客は携帯通信事業者(MNO)で、サービスはMNOと収益分配の形で提供するモデルが中心です。加えて、ゲートウェイ機器の販売や企業向けデータプラン、政府・軍事用途、航空や海運向けの接続など複数の収益源を想定しており、パートナー経由での販売に依存しています。

事業面では衛星の研究開発と自社での製造・組立・試験に力を入れており、米国や欧州、イスラエルの施設で生産能力を拡大しています。打ち上げは複数のロケット事業者と契約して段階的に展開しつつ、知的財産の保護や地上インフラの整備、MNOとの商談を進めることで商用サービス化を図っています。

経営方針

同社はSpaceMobile Serviceを商業化して「衛星から直接普通のスマホにセルラー接続を提供する」ことを成長の柱とし、段階的にカバー範囲と容量を拡大することで収益化を図っています。具体的には、まず25基(Block 1の5基+Block 2の20基)のBB衛星で断続的なサービスを実現し営業キャッシュフローを生み出すことを目指しています。さらに重要市場では45〜60基で連続サービスを確保し、長期的には約90基で全対象地域の連続的カバレッジを達成する計画です。立ち上げ資金は自己資本や転換社債、融資などで調達する方針で、最近は2032年満期の転換社債を4.6億ドル発行するなど資本政策を進めています(配当は当面予定しておらず、利益は事業開発に再投資する方針です)。

同社は製造・供給網と衛星設計への重点投資で差別化を図っています。製造面ではテキサス(約19.4万平方フィート)やスペイン(約5.9万平方フィート)、イスラエル(約3.3万平方フィート)などの組立・試験施設を拡充し、2025年第2四半期までに月産6基の組立・統合・試験能力を目標としています。技術面では世界最大級の位相配列アンテナや自社で設計するASICチップの導入を進め、1ビーム当たり最大40MHz、衛星あたり最大120Mbpsのピークレートや約10,000MHzの処理帯域を志向しており、これにより必要衛星数や単位コストの削減を狙います。また複数の打上げ業者と契約を結び打上げリスクの分散を図るとともに、モバイルネットワーク事業者(MNO)や無線インフラ事業者と連携して現地のゲートウェイや販売を担ってもらう収益分配モデルを取ることで営業コストを抑えようとしています。

新市場の開拓では、資本効率を重視した地理的優先度に基づく段階的展開を採っています。まず採算性の高い地域に限定してカバレッジを構築することで初期の資本負担を抑え、ゲートウェイ機器の販売やMNOとの収益分配契約で商用化を進めます。法人向けや政府向けの用途(航空・海運向け、企業向け定額、軍・政府案件など)や、通信の届かない地域での単独サービス提供といった複数の商用モデルを用意しており、米国宇宙開発庁(SDA)関連の試験サービスで約4,300万ドルの収入見込み契約を獲得するなど、公共分野での拡大も図っています。需要に応じて90基を超える追加衛星投入やグローバルなゲートウェイ網の拡大も検討しています。

技術革新への取り組みは経営戦略の中核です。同社は研究開発と知的財産の保護に投資し、多数の特許出願を進めることで技術優位を維持しようとしています。製造面では組立の自動化や部品の内製化・垂直統合を進め、試験工程(振動や環境試験)を社内で実施して品質と納期を管理します。ASICへの移行によりFPGAベースからの性能向上とコスト低減を目指す一方で、サプライチェーンの多角化やサイバーセキュリティ対策(NISTベースの管理、外部ペネトレーションテスト、関係機関との連携)を強化し、運用リスクの低減にも努めています。